加重投票制
 国際機構の諸機関での評決にあたり、構成国の国力や機構への貢献度に応じて票数に差異を設ける制度。国連の諸機関の評決は、国家平等の建前から1個1票制を採っているが、これに対し、国連システムの中でも金融専門機関(世界銀行、国際通貨基金など)では財政的寄与、欧州連合では人口を基礎とした加重投票制を採用している。国連分担金の最大拠出国であるアメリカは、発展途上国に有利な国連総会の1国1票主義を不満とし、財政措置を必要とする意思決定に加重投票制の導入を要求している。

チベット人国際問題評論家ペマ・ギャルポ氏が研究顧問を勤める政治研究所のメール・マガジン。G I I レポート http://www.g-i-i.net/ 第49号2004年10月22日より
[5・知的ゲームとしての国連改革]
 準常任理事国も同様であるが国連改革に関しては色々な考え方が理論研究者を中心に行われて来た。拒否権の扱いも、その一つである。
 産経新聞10月15日号で長戸氏は国連総会の討議の中で多くの国が現常任5大国を含む拒否権の問題に批判的であると報道している。英連邦の国々は新しい常任理事国を作るとしても拒否権を与えるべきではないと発言し「拒否権は民主的ではない」とスイスの代表は述たと報道されている。拒否権は"現在の世界政治を反映していない"と言う事なのだろうか?だが現5大国が拒否権を手放す事はあり得ず、また拒否権の無い常任理事国にしてもらっても、やはりそれは非常に不安定な力のない立場に過ぎない事も本誌で繰り返し述べた。
 そこでチュニジアの意見が非常に面白い。「新・旧の常任理事国を問わず拒否権は武力行使の可否の様な重要な決定以外では制限されるべきだ。」この考え方も古くからあり、たとえば二つ以上の常任理事国が発動しない限り拒否権は意味を持たない様にするべきだーと言う様な考え方も昔からある。私は以前ある席で外務省高官に「現5大国の拒否権は、そのままにして、新しく常任理事国になった国は、その様な半拒否権といった方向で話をまとめられないか?」と言った事がある。そして同時に私が言ったのが加重投票制の導入であった。
 先にEU展開部隊の事に触れたが、それと共に前号でEUが憲法を作るに当たって、理事会での決定方式で対立し、大国にも小国にも、そして中級国家にも不利にならない様な決定方式を時間を掛けて考えている事を報告したと思う。そして、そうしようとすればするほど、各国の持っている持ち票の計算の仕方が非常に複雑になり説明が困難であるという事も申し上げた筈である。
 加重投票制とは、この持ち票制を国連にも持ち込む事であり、そもそも今の国連が出来る以前からあった議論であった。しかし、これは当然の様に世界連邦型の理想を持った人々が人口の多さを以て各国の持ち票を決める様な考え方が始まりだった。つまり国連は彼らにとって世界議会でなければならなかった訳である。だが、これでは人口の多い途上国に有利で先進大国に不利である。先進大国に不利だった為に先進大国の協力を得られず第二次大戦の発生を当時の国際連盟が防げ
なかった反省から今の国連は出来たのである。従って人口を基準にした持ち票制を国連に持ち込む事は矛盾なのである。
 そこで如何に人口の差が持ち票の差にダイレクトに反映しないか。世界連邦主義者達が知恵を絞っている内に、どんどん話が複雑化してしまったのである。究極は1990年に国連民主化会議でカナダの平和NGOが発表した途上国を有利にする人口だけではなく先進国側を有利にする経済力や軍事力の数字も加味した数字の、さらに国家間の差を縮めて全ての国を出来るだけ平等にする為、複雑な数学的操作を行い、その上、人口や軍事費の削減に努力した国の持ち票を何年かに一度、増やす事で人口過剰や軍拡を解消しようとする案であった。
 これは知的には非常に面白く私は拙著『楯の論理』(展転社刊)の中で、この案をさらに現実化した案を提案している。しかし私が、この加重投票制について話した時その他、今まで述べてきた理論的な国連改革に関して述べた時、外務省ないし国連組織の中にいる人々からポジティブな反応が返ってきた事は一度もない。
 それどころか平和オタクの若い女性研究者にさえ言われてしまった。「経済社会理事会で中国は拒否権も何もありません。でもチベット問題等で中国が人権問題を担当する経済社会理事会で非難決議された事は一度もありません。どこの国も安保理で別の問題で中国に復讐される事が怖いのです。拒否権のある常任理事国にならない限り、世界の人々の平和や人権を守る為に主導権を取る事は出来ません。」
 私は今でも自分が考えついた複雑な数式こそが"現在の世界政治を反映したもの"であると信じている。しかし、それを実現する為の主導権確保の為にも一点突破的に日本は常任理事国に成るしかない。